平成11年度学校保健講習会報告                                              宇和島医師会理事 桑折紀昭school 

最近の学校健康教育行政の課題について ‥……………‥‥‥……‥…・…・………・・・…‥徳重眞光
学校精神保健システムー特にバックアップ体制について−・…‥…・・…‥……‥‥………・・・・山崎晃資
子どもの生活習慣に関する諸問題 ‥‥‥‥・・‥‥‥‥‥‥……・……・………‥…・・…‥‥村田光範

【シンポジウム】日本医師会認定学校医制度を考える

学校医活動に関するアンケート調査の結果について ‥…・…・・…・・……・‥…・……・・……・…青木宣昭
都道府県医師会からみた日本医師会認定学枚医制度について一広島県医師会・・・・ ……‥…・桑原正彦
都道府県医師会からみた日本医師会認定学校医制度について一長崎県医師会・・・・・…‥…・佐藤健次郎
都道府県医師会からみたR本医師会認定学校医制度について
 一青森県医師会・慎重派としての意見− ‥…・……‥……・…‥・‥…‥‥‥‥‥‥‥‥…富田 純正
                                                  縄田 輿幸・坂上絢一郎
都道府県医師会からみた日本医師会認定学校医制度について島根県医師会−・・・・・………‥葛尾 信弘

 学校現場での様々な問題が、社会問題として学校医、あるいは診療の場で学童と接するすべての医師にとって、

看過できない状況の中、平成11年度学校保健講習会 が開催され、県医師会長をはじめ東中南予各代表、及び眼科代表を含め、

愛媛県から7名が参加してまいりました。開会、挨拶のあと文部省体育局学校健康教育課長徳重眞光氏が

「最近の学校健康教育行政について」と題して講演されました。児童生徒の健康の現状と課題について述べられたあと、

健康教育の充実、保健管理の充実と分けて取り上げられ、従来の感染症対策に加え、薬物乱用防止、エイズ(性教育)教育、

心の健康などに詳しく触れられたのは、学校現場でこれらの問題がいよいよ切実にのしかかっている事実を示し、

昨年の環境ホルモンの諸問題と題された講演などとともに、我々の関心が、従来の健診を主体とした、どちらかといえばのどかな

学校風景から、殺伐ともいえる今日的状況へ向けざるを得ない事態である事をあらためて指摘されました。

 その事は、続いておこなわれた東海大学医学部精神科教授、山崎晃資氏による「学校精神保健システム、

特にバックアップ体制」と題された講演でより集約されました。少子化がますます進行する中で、不登校、いじめ、校内暴力、

家庭内暴力、摂食障害、薬物乱用、児童虐待、学級崩壊、援助交際等、子供のこころの問題が急増し、多様化し、

しかも低年齢化する中、学校精神保健活動の必要性が広く認識され、学校医の役割がより重視されるであろうとした上で、

@学校精神保健システムの構築Aケーススタデイの持ち方とスーパーヴィジョンの方法の修得B他職種との

具体的な連携の問題が取り上げられました。

@では子供のこころの問題は家庭、学校、地域社会という幅広い連続体でとらえなければならず、その中で学校医を

コーデイネーターとして位置づけ

1)学校保健委員会、小委員会としての「こころの健康協議会(仮称)」の創設
2)キーパーソンとしての養護教諭との連携
3)スクールカウンセラーとの連携
4)生徒指導担当教諭および学校保健担当教諭との連携
5)学校長、教頭、一般教諭との役割分担

の必要性を指摘されました。

さらにABにおいて地域ネットワークの構築に積極的に関わる必要性をあげられました。学校医は、権威的であってはならず、

モラルの違いに敏感であり、自由な発言、論議の場を作り、地域支援組織と連帯し、これを活用しネットワークの中心として

活動していくべきと結論づけられました。

 午後は東京女子医科大学付属第二病院長、村田光範先生が「子供の生活習慣に関する諸問題」として、

西欧型都市型先進国型文化生活に潜む健康障害について講演されました。

さんまがない!すなわち時間、空間、仲間がないのを今日の子供たちの特徴的生活様式ととらえ、そこから引き起こされる

様々な健康障害の改善にはスポーツの普及しかないであろうと結論されました。過密な教育スケジュール、

ある意味で貧困な食生活、コミュニケーション作りの難しさなどをまとめて解決するにはややこしい指導、小難しい議論よりずっと

有効な手段に思えますが、そのための間をいかにして作り上げるか、、。

生活習慣が引き起こす健康障害に関して、従来いわゆる小児成人病についての講演が主であったわけですが、

今回は小児高脂血症のガイドライン作成は我が国では無理があるとしむしろ学級崩壊、不登校等の原因の一部として

取り上げられた点は評価すべきでしょう。例えば学級崩壊の原因として、教師の指導力不足に加え、家庭での不十分なしつけ、

幼稚園での過度な自主性の尊重、母子分離不安をあげておられました。

 最後に、「日本医師会認定学校医制度を考える」をテーマにシンポ ジウムがおこなわれました。

それに先立ち、日本医師会学校保健委員会委員、青木宣昭氏によるアンケート調査報告があり、

導入すべきが過半数をやや上回っていましたが、何をどうしようとしているのか多くの会員が十分理解していない上での調査という

印象は拭いきれず、そのあたりに質問が集中しました。たしかに、中身がはっきりしないまま導入の是非を聞かれてもというのが

率直な感想でしょう。ともかく、それを踏まえて都道府県から、賛成派(広島から桑原正彦氏、長崎から佐藤健次郎氏)

反対あるいは慎重派(青森から富田純正氏、島根から葛尾信宏氏)という形で意見が述べられました。

賛成意見として、単に定期検診のみにとどまらず、循環器、腎疾患、再興、新興感染症、アレルギー、心身症、不登校、いじめ、

喫煙、飲酒、薬物乱用、性の逸脱行動、生活習慣、さらには教師の精神疾患管理、産業医の機能まで盛り込んで、

頼れる学校医たれと述べられ、総論としては反対の余地はないものでしたが、慎重派からは、地域によっては学校医のなり手すら

いない現状、医師不足によって一般診療に追われ、救急、介護すべてを任され研修する時間などない、といった意見も多く、

地域間格差を考慮したものでなければ早期導入には無理があろうかと、自身の立場も振り返りながら拝聴いたしました。

個人的には、スクールカウンセラー等の導入が進む中、従来の学校医は廃止し、

各分野の専門家集団(内科、小児科、婦人科、眼科、耳鼻科、整形スポーツ医、児童精神科、カウンセラー、

産業医、養護教諭、学級担任、栄養主事、安全主事、薬剤師、さらには警察等も含め)を地域におき、

学校健康指導グループとでも呼んで、各々事例に対処すべきではないかと従来から考えています。

一人の学校医に上記機能を集約することは物理的に不可能であり、かえって誤った判断をしかねないと思っています。

 最後に、この充実した研修会に参加の機会を与えていただいたことを深く感謝しいたします。

ただ、当日、風邪をお召しになっている講師の方々も多く、また、翌日の乳幼児保健講習会には小児科医の関心も高いわけですが、

最もかぜ症候群が流行するこの時期を避けて開催されれば、さらに多くの参加者も望めるのではと感じました。