第13回日本外来小児科学会年次集会報告(仙台)AMB

愛媛県小児科医会常任理事 桑折 紀昭

 

はじめに

平成15年8月30日、31日の二日間、上記集会が仙台市:江陽グランドホテルで開催されました。

今回は、新居浜市の松浦章雄理事より、「はしか0プロジェクト」に出席し愛媛県の状況を伝えてくるよう指示されていましたので、

このセッションを中心にご報告します。

はしか0プロジェクトについて

このプロジェクトは、正式名「はしかゼロ対策小児科医協議会」として発足したようですが、私自身は発足の経緯を知りません。

外来小児科学会には、数多くの委員会、部会がありそれぞれ活発な活動をしていますが、この協議会はまだ正式な部会ではないようで、

現時点では「麻疹に興味のある医師の自由な集まり」といえるようです。今年5月に並行して立ち上がったMLにはすでに187名が参加し

活発な情報交換がおこなわれています。

【第2回 はしかゼロ対策小児科医協議会】

  ということで、8月31日(日)午前7時30分〜8時30分という早朝の開催となり、飛び入り参加という形式でおこなわれました。

が、開催時刻には席を捜さなくてはならないほどで、熱気に溢れた会でした。

北海道市立札幌病院、富樫武弘の司会で会は進行し、沖縄から順次キーパーソンが現状報告をおこないました。キーパーソンはML上で

各都道府県1名選ぶよう準備されていましたが、まだ全ての地区で決定されていないようでした。

沖縄県からは、平成15年1月から6月までの麻疹全数把握状況が報告されました。自治体によっては、発生状況すらわからない県もある

ようで、取り組み方の相違が議論されました。

山口県からは、本年7月に開催された同県小児科医会定期総会特別講演「なぜ、今、麻疹撲滅なのか?」と題された、北里生命研究所教授

中山哲夫先生の講演内容が配布され、外来でのワクチン接種確認方法、および勧奨推進に関するアイディアが紹介されました。

石川県からは、教育、保育施設用麻しん対応マニュアルが配布されましたが、この春、某大学を中心に発生した麻しんに対し、迅速、かつ

大規模なワクチン接種がおこなわれた背景などに議論が集まりました。

千葉県からは、本年からはじめたサーベランスで、予想をはるかに超えた報告が寄せられ、早急な対策の必要性が訴えられました。

埼玉県からは、重症麻疹に絞った全国調査結果が公表されました。

北海道からは、「北海道麻疹ゼロ作戦」の展開が報告され、札幌市では9ヶ月健診時に、お誕生日にカレンダーに貼る「麻疹ワクチンシール」

を渡して接種率向上に努めていることなど具体例が報告されました。

愛媛からは、わたしが、松浦章雄先生の主として東予での麻疹発生状況の分析報告に加え、昨シーズン小流行のあった宇和島の例、

および当日おこなわれる愛媛県小児科医会教育集会「麻疹特集」を紹介し、麻疹そのものの脅威が忘れられようとしていること、それには

小児科医が歴史的に認識を深める必要があることなどを述べてきました。

以下のアピールが採択され閉会となりました。

 

ーはしかゼロプロジェクトアピール 2003in 仙台ー

世界保健機関(WHO)は、2005年を目途に世界からはしか(麻疹)を排除することを目標にしており、

各国がはしかワクチン接種率を95%以上にして、国内におけるはしかの地域的流行を排除することを要望している。

しかるにわが国においては、はしかワクチンが定期接種になって25年を経過した今日においても、接種率が80%前後を低迷しており、

毎年のように全国各地ではしかが恒常的に発生していて、ときに地域的流行を繰返している。WHOのはしか排除レベルでは、

わが国は開発途上国同様の初期の「制圧期」にとどまっているのが実情である。

はしかゼロ対策小児科医協議会は、この様な日本のはしか対策の現状を憂慮し、緊急かつ危機感をもって下記のアピールをする。

1.私たちは日本国内で、はしかの発生ゼロをめざす。

2私たちは1歳児のはしかワクチン接種率95%以上を目標にして、あらゆる活動をする。

3国および各都道府県は日本からはしかを排除するという強い意志を示して、有効な対策を推進していただきたい。

はしかゼロ対策小児科医協議会

宮城県小児科医会

仙台小児科医会

麻疹0を目指す医師たちによる自然発生的会合であったため、冷夏を肌で感じる仙台でしたが、天候とは裏腹に、大変活発な議論が

交わされ、決起集会に近い熱い盛り上がりようでした。しかしながら、こうした活動は以前からおこなわれており、より実効の上がる対策が

求められるとの追加提案があり、・日本医師会、小児科医会とリンクする形で進めていく必要性・より有効なポスター、グッズ等の作成検討

関連団体、個人のHP上統一して「1歳のお誕生日に麻疹ワクチンを!」のフレーズを入れるなどの意見が出されました。

(わたしも実施しました)

関連として、今月で終了する風疹ワクチン経過措置に関し、コンビニでポスターを貼ったり、チラシを配ったという報告もありました。

(わたしも実施しました)

終わりに

麻疹はとりわけ乳幼児にとって、きわめて重大な疾患であるにもかかわらず、ワクチン接種がおこなわれるようになり従来ほどの大きな流行も

なくなり、関係者はもとより、小児科医自体も、日常茶飯に遭遇する疾患ではなくなり危機意識だけが低下してきました。

本邦におけるワクチン接種率は、さまざまな理由から、先進諸外国に比べ流行阻止、あるいは撲滅するに十分なレベルに達していません。

そうした状況下で、接種すべきという義務感は薄れ、同時に地域によっては、既接種者における抗体価の低下に伴う年長者、成人の感染な

どの報告も増え、憂慮すべき事態といえます。、

1960年代から麻疹ワクチンが導入され、当初、発熱、発疹等の副反応が高率にみられたため、ガンマグロブリンとの併用、KL法なども

おこなわれ、紆余曲折があった末、今日の生ワクチンが定着したわけですが、世界的にもきわめて早い段階で開発に成功した我が国が、

なぜ、今、世界でももっとも遅れたシステムになってしまったのか、検証しなくてはならないのでしょう。麻疹ワクチン2回接種となっていない

国は、アフリカの数カ国、インド、東南アジアの数カ国と日本だけです。

1土壌がないのだろうか?

天然痘からSARSまで、外来感染症にさらされた歴史はあり、種痘は江戸時代から予防対策がとられ、ポリオ大流行の際はソ連からワクチン

輸入を受け劇的な効果を認め、予防対策がいかに大切かは誰しもわかっているはずです。麻疹に関しては、江戸末期、攘夷の軍用金を

口実にして、物持ちの町家をあらし廻るのは此の頃の流行で、麻疹(はしか)と浪士は江戸の禁物(きんもつ)であったとまで恐れられていた

わけで、今日の健康ブームをみるにつけけっして疾病予防に無関心な風土とは思えません。

1972年の小児科臨床に掲載された「麻疹と開業医」という論文には、「当初、ポリオ同様、麻疹が我が国から撲滅できると期待した、、、」と

あります。(30巻11号92〜)いっぽうで、なにかにつけ「はしかのようなもの、一回は経験しなければ」などと元厚生大臣を含め国の指導者

たちが口にするのは、どう考えればいいのでしょう?愛子様がはしかワクチンを受けられたというのに、、、、。

2行政の瑕疵

薬害エイズ、狂牛病、古くは水俣病、イタイイタイ病、森永砒素ミルク、、、、、、健康を脅かす人為的ミス?にたいし、行政は必ずしも妥当な

対応をしてきませんでした。その多くは企業側にスタンスをとった対応でした。近年のインフルエンザワクチン接種並びにワクチン供給体制、

抗インフルエンザ薬承認の経緯なども国民の健康を守ろうという必死な気持ちは伺えません。こうした姿勢が国が国民に勧奨する予防接種

に対するアレルギーを助長したことは間違いありません。たしかに、ワクチンによる事故がなかったわけではありませんが、十分な検証もせ

ず、すぐに中止、中断し不安を煽った例はつい最近もポリオに関してあったことです。DPT中断によって、一時、限りなく0に近かった百日咳が

一気に増え、多くの赤ちゃんが死亡したことを忘れてはいないはずです。国に明確なワクチン行政への姿勢があれば、今日のような状況は

招かなかったと思いますし、従来どおりであれば、今後あらたな災禍を招くのは目に見えているように思います。

こと、疾病予防という国家的プロジェクトが、地方自治体にゆだねられているという現行システムにも大きな問題があります。その意味でも広

域化推進はきわめて重要な取り組みといえます。

3メディア

メディアの役割を否定するものではありませんが、スポーツや芸能、趣味や娯楽記事ならいざ知らず、こと健康に関する問題を軽々に扱って

欲しくないと思います。他の先生方からも耳にしましたが、インタビュー、取材をおこなう記者がほとんどその事に無知であることは私自身も

経験してきました。

とりあえず今、何がチャンネルを奪い、目を引きつけるかが命題となったメディアにとって、ワクチン接種に伴う事故(副反応)などは恰好のネタ

でしかないわけです。その記事が何をもたらすか、など念頭にないわけです。その事件の歴史的背景、経緯、有益性と不利益に関し十分

考察されたものとは言えず、それを目にし、耳にした国民はあっさりその気にさせられてしまうわけで、メディアの責任とはどこにあるのか

明確にして欲しいと思います。

今日のマスメディアはある意味で国家体制以上に強い力を持っています。しっかりした情報ネットワークも持っています。安っぽい週刊誌的

話題提供ではなく、正しいベネフィット情報と、正しいリスク情報を迅速に公開する義務があろうかと思います。

4医療関係者

一定の主義、立場からワクチンに消極的な、あるいは否定的な意見を持つ医療関係者も少なくありません。たしかに、今日のワクチンが完全

なものと言い切るわけにはいかないのは事実ですが、地球規模での流れ、バランスシートという考えからもはやワクチン推進を阻止することは

できないと思います。過去の呪縛や目先の利益などにとらわれることなく、子供たちにとってよいことを率先しておこなってやることが小児科医

の使命ではないでしょうか。戦後、予防接種法が1948年に施行されたその年に生まれた者として、おそらく延べ数千人の麻疹患者さんを

みてきて、そのワクチンの歴史とともに小児科医を過ごしてきた者として、快適な「はやて」に揺られながら「なんでだろ〜」と思いながら帰って

きたしだいです。(2003愛媛県小児科医会会報45号掲載)